丹波篠山 VillEdge co-working space

プロジェクト

VillEdge敷地内の工房で、野生動物の研究施設をスタート。~野生鳥獣研究所『けものら』 金山俊作さん~

2024.07.16


VillEdgeでは、草山地区の里山をフィールドに仕事をしていきたいとお考えの事業者の方向けに、賃貸物件のご紹介などもおこなっています。2024年2月、VillEdge敷地内の一棟で、地域おこし協力隊出身の金山俊作さんが、野生鳥獣研究所「けものら」をスタート。野生鳥獣研究所って? どうして草山で? 金山さんに尋ねてみました。

 金山俊作さん

野生鳥獣研究所「けものら」(https://kemono-lab.jp)所長。兵庫県三田市出身の獣医師。2022年3月まで農水省で家畜衛生や動物検疫に携わり、同年4月から丹波篠山市の地域おこし協力隊に。丹波篠山市を選んだのは「実家から近かったのと、起業支援が充実していたから」。任期満了を前に2024年2月、「けものら」を設立。

野生動物の病気をどうコントロールするかという命題が、自分のなかにある。


農水省職員の獣医として10年弱仕事してきて、動物の感染症対策にもどかしさをたくさん感じてきました。家畜にワクチンを打ったり施設にウィルスが持ち込まれないよう消毒を徹底したりと、いくら農場の内側で防疫対策をがんばったところで、ウィルスに感染した一頭の野生のイノシシに入り込まれてしまったら、それで“おじゃん”になるリスクが常にあります。人に飼われていない動物、つまり野生動物は、アンコントローラブルな存在。野生動物が獣医のもとに「ワクチンを打ちたい」「病気になったかもしれない」と連れて来られることはありません。野生動物の病気の流行状況をリアルタイムで調査・研究して、人や家畜への感染症対策をとるためのデータ取得ができたら……


構想はあっても、どうしたら実現できるかわからない。地域おこし協力隊になった当初は、まさにそんな状態でした。声をかけていただくがままに赴いた協力隊の活動でいろんな人と交流するなかで、ようやく見つけたんです。「山の整備」が自分の構想と地域課題の接点になる!って。

獣医の目線だけでは、命題を「仕事」にできなかった。


僕は林業の人間ではないから、山の整備そのものはできません。でも、林業家さんが気持ちよく仕事できる環境のサポートはできます。たとえば書類仕事に、役所との連絡調整、協議の仲介役。公務員の経験がすごく活きています。

手入れされた山では、人の生活の圧力がかかるのでしょう、しぜんと野生動物の侵入が減っていきます。人・動物・環境が健やかにつながっていくための取組みを「ワンヘルス(One Health)」といいますが、

獣害を減らすワンヘルスも、ワンヘルスのために山の整備で出くわした野生動物を解剖して調査・研究することも、獣医の僕だけでは叶いませんでした。


ワンヘルスの取組みって、とかく世界規模で考えて、世界規模でアプローチしがちです。でも僕は、草山という手の届く範囲で人・動物・環境の調和をはかっていくことに意義を感じています。環境と自分たちの暮らしがひと続きになっている実感が強いからこそ、「手間」を含めた現実的で効果的なアクションが生まれるので。


外から持ってきた「里山のために」「防疫のために」のアイデアって、現実にもまれていないから、すごく脆い。僕にしてもそうです。どうやって地域課題とつなげて、「野生動物の病気をコントロールする」を「仕事」として成り立たせるか。いろんな人と会って、どういう人が住んでいて、どういう技術や考えをもっているか知って、声をかけたりかけられたりしているうちに、「野生鳥獣研究所『けものら』」のスタートに至りました。

観察して、調べて、見立てる力を。


「けものら」はスタートしたばかりですが、こどもを対象にした解剖教室などもしていきたいと考えています。先日、都会の子どもたちと話しているときに、緑色のクモが現れたんですよ。「これなんだろう?」と言ったら、ひとりの子のお父さんがサッと出てきてGoogleレンズで撮って。検索ですぐにツユグモだと分かったものだから、「わぁ」ってなっていた子どもたちも一気に興味を失ってしまいました。観察して、形態的な特徴を見つけて、調べて「これかな?」という情報を引き出してきて「あぁ、違うかも」と考え直したり……をしたかったんですけどね。


検索すれば情報はたくさん出てくるけれど、地域課題の解決策にしても、状況やプレイヤーが同じものは二つとしてありません。ほかの地域で山を整備する団体を立ち上げるにしたって、僕のように公務員出身の書類仕事が苦じゃない人間がいるとは限らない。よそでうまくいった事例をトレースしてもうまくいきっこないんです。だからこそ、観察力とか、調べる力、見立てる力が重要。解剖教室で、こどもたちにそのあたりをアプローチできたらと思っています。